在職老齢年金をめぐる3つの誤解 あなたにとって制度の持つ意味は?

年金と給与

「働いていると年金が減らされる」とされている在職老齢年金制度。この表現で大きく間違っていないのですが、誤解もあります。これらの誤解がなくなると、今後ニュースなどで報道されても、あなたにとってはどのような影響があるのか分かりやすくなります。

1. 本来「もらえる」モノ?「もらえない」モノ?

この在職老齢年金。

そもそもの「もらえる」「もらえない」について、ちょっとした紆余曲折があります。
この点をクリアにしないと、細かい情報が分かりにくくなります。

なお、在職老齢年金は企業勤めの人の厚生年金に関するものです。
基礎年金の支給とは関係ありません。

1.1 2019年現在の現行制度では「もらえない」モノ

2019年現在、在職老齢年金を説明するなら「働いている高齢者の場合、収入によっては年金が減らされてしまう」ということになります。
つまり、「在職老齢年金という年金を貰える」のではなく、「もらえない」のです。

現行の制度では、「月収+年金」が基準額を超えると、超えた分の1/2がもらえなくなります
正確には「支給停止になる」のですが、後で述べるように「いつか停止が解けてもらえるかも?」というものではありません。
このような誤解を招かないよう、ここでは敢えて「支給停止」ではなく、「もらえない」と表現します

基準額は65歳未満が28万、65歳以上が47万円(2019年現在。年によって変わります)です。

2.2 昔は「もらえる」モノだった

では、なぜ「もらえない」モノなのに、「在職老齢年金という特別な年金がもらえそうな名称」がついているのでしょうか。
2019年現在の感覚なら「在職老齢年金“減額制度”」とでも呼んだ方が実態に見合っているでしょうに。

それは、1960年代に始まった時点では「もらえる」モノだったからです。
この制度以前、老齢年金(厚生年金)は「退職した人」のみがもらえていたのです。
そこに「在職していても」「年金をもらえる」ようにしたのが、そもそもの在職老齢年金なのです。

この記事の内容をイメージしやすくするために、頭の片隅に置いておいていただきたいことがあります。

年金は、社会保険という「保険」の一つです。
保険というのは、みんなでお金を出し合って、何か不幸な事態に陥った人を助けるものです。

民間の生命保険も皆の保険料を集めて、不幸にして死亡事故に遭った人保険金が給付されます。

社会保険の給付もそうです。
医療保険は病気になった人のため、雇用保険は失業した人のためにあります。

年金保険の老齢給付も、「年を取って働けず暮らしに困る人」がそもそもの給付の対象です。

医療保険について「病気して給付を受けなかった」からといって、不満に思う人はあまりいないでしょう。
無病息災で良かった、と思う人もいるかもしれません。

年金は、年を取って働けず生活に困る人のものというのがそもそもです。
1960年代からは「働いているけれど、生活するには十分じゃない」人向けに、特別に「在職老齢年金」が「もらえる」ことになったのです。

2019年現在、「働いていると年金が減らされる」とみられていますが、これは同じものを右側から見るか左側から見るかの違いのように感じます

現在の在職老齢年金制度について、高齢者の就労意欲を妨げるという観点から見直しが続いていますが(で、迷走気味ですが)。
もともとの趣旨からすると、年金を大盤振る舞いするわけにもいかないというブレーキもあるのです。

↓いままで述べてきた「そもそも」論が分かりやすく説明されているのが、厚労省のこの資料です。
【参考】在職老齢年金制度について(平成28年度)
https://www.mhlw.go.jp/qa/dl/nenkin_h24_zaisyokurourei.pdf

2. 繰り下げ受給は対抗策にはならない

働いている間は年金をもらえても減額されてしまう。

「それじゃあ」ということで、「退職するまで繰り下げ受給すればいいのでは?」と思う人もいるでしょう。

年金は65歳から支給が原則ですが、1カ月繰り下げると0.7%増額する「繰り下げ受給」という制度があります。

たとえば68歳まで働くなら、年金の支給をそれ以降にすれば「年金を減らされもしないし」「年金額も0.7%×繰り下げ月数増える」じゃないか…と策を練る人もいるでしょう。

しかし。
このうち「年金を減らされもしないし」はダウト!です。
確かに繰り下げ受給を選択すると、「0.7%×繰り下げ月数増額される」のは正解です。
ただし、その基準となるのが、減額後に支給された状態の年金額なのです。

日本年金機構の繰り下げ受給の説明にもあります。

「9.在職中の方は、調整後の年金が増額の対象となります
繰下げ待機中に厚生年金保険の被保険者となった場合は、65歳時の本来請求による老齢厚生年金額から在職支給停止額を差し引いた額が、繰下げによる増額の対象となります。」

日本年金機構:「老齢厚生年金の繰下げ受給」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/kuriage-kurisage/20140421-05.html

繰り下げ受給すれば、0.7%×繰り下げ月数増えることは間違いありません
ただ、在職老齢年金制度で「もらえない」状態を回避することはできないのです。

3. 該当する可能性はそれほど高くない

報道を騒がせている話題であり、確かに「高齢者の就労意欲をそぐ」なら問題ではあるのですが。

だからといって、該当者がそんなに多いものでもない面もあります。
年齢と収入とが理由です。

3.1 65歳未満で年金をもらえる人は「特別」です。

「2019年現在の在職老齢年金制度では65歳未満の場合28万円以上で減額となる」と聞いて。
「あれ?年金って65歳から貰えるんじゃないの?」と思った人、スルドイです!
2019年現在、65歳から貰えるのが原則で、生まれた年によっては「特別に65歳前からもらえる人もいる」のです。

これは、1985年に支給開始年齢が60歳から65歳に引き上げられた際の経過措置が2019年でも残っているからです。
とはいえ、そろそろ該当者はいなくなり、65歳に一本化されつつあります。

65歳未満でもらえる「特別支給の老齢年金」については↓をご参考下さい。

FP受験生泣かせ「特別支給の老齢厚生年金の年齢」を超具体的にまとめました!
老齢厚生年金の受給は原則65歳から。しかし昔は60歳が支給開始年齢で、そのつもりで暮らしていた人々のため、引き上げは段階的にゆーっくりと現在も進行中。これが「特別支給の老齢厚生年金」です。FP受験教科書では「昭和〇年生まれは~」と無味乾燥な...

今の現役世代で、65歳未満のことを心配する必要のある人は少ないでしょう。

もし、今この記事をお読みの方で「65歳未満でも年金をもらえるし、サラリーマンとして働くつもりだ」という方は、以下の過去記事をご参考下さい(60歳から65歳までの年代の「社会保険の複雑さ」を雇用保険中心にまとめています)

雇用保険(高齢者雇用継続給付など)と年金。60~65歳は複雑です
60~65歳という年代、「高齢者」かそうでないか、どちらだと思いますか?一昔前はリタイアするのが一般的でしたが、今後は、今後は勤労者として働き続けることが期待されています。2019年の「今」は過渡期なので社会保険が複雑です。 1. 今後、...

3.2 65歳以上で該当者は「2割弱」

65歳未満で年金をもらっている人は特別ですし、65歳以上の基準額は47万円です。

厚労省の2019年の資料では、「65歳以上の在職している年金受給権者」で、この基準に引っかかっているのは「2割弱」です。

【出典】厚生労働省年金局「在職老齢年金制度の見直し」2019年10月9日
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000555792.pdf

言い換えれば8割強の人は該当しません

1月47万円の収入があるということは、1年で47万円×12カ月=564万円あることになります。

今の基準では該当者は、2割弱の、いわば”恵まれた人”です。
年金財政が厳しくなると予想される中、「金持ち優遇」と批判されてしまいそうな状況ではあるのです。

まとめ

在職老齢年金の説明だけ聞いて「ええ?働いていると年金が減らされるの?それってどんな罰ゲーム?」と思う人もいるかもしれません。

まずは、在職老齢年金という制度の成り立ちをおさえましょう。
昔の「働いている人は収入があるから年金は無しね」から「賃金だけでは不足するなら年金も出しましょう」となったのが、もともとの在職老齢年金の出発点です。

それから。
もし、自分が将来該当しても「繰り下げ受給」っていう裏技があると思うのも早計です。
在職老齢年金として支給される額(減額された額の引いた残り)については、0.7%×繰り下げ月数分増えるのは確かなんですが。
減額そのものを回避はできません。

そして。
この制度に該当する人は、それほど多くありません。
今の現役世代が「やっぱり年金制度は暗いんだ…」と悲観するような話では、あまりありません。
むしろ、年金制度の支出を抑制するので、該当しない人には安心すべき点もあります。

もっとも、「高齢者の就労意欲」をどう上げていくのかというのも課題であり、今後も改正が論議されることもあるでしょう。

この記事を参考に、「在職老齢年金制度」と自分自身の立ち位置とをしっかり把握して、今後の報道に注目していきましょう。

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